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大阪高等裁判所 昭和44年(行コ)34号 判決 1975年3月12日

控訴人 西税務署長

訴訟代理人 松田英雄 高橋欣一 中山昭造 ほか六名

被控訴人(亡中川徳雄訴訟承継人) 中川繁子 ほか二名

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人が昭和三九年七月一七日付で、亡中川徳雄の昭和三八年の所得税について、その総所得金額を金五九八万八、四五〇円としてなした更正処分のうち、金五六一万八、八二〇円(五六四万六八二〇円(更正決定))を超える部分は、これを取消す。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一、当事者の求めた裁判

(控訴人の申立)

原判決のうち控訴人敗訴部分を取消す。

被控訴人らの請求はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(被控訴人らの申立)

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、当事者双方の主張並びに証拠関係は、次に付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから引用する。なお、以下(理由説示も含む)において、昭和三九年法律第一四五号、第一六八号による改正前の租税特別措置法を単に措置法と、昭和三九年法律第二〇号による改正前の所得税法を単に旧所得税法と、昭和三七年六月二九日閣議決定・公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱を単に補償基準要綱と、昭和三九年一月二一日付国税庁通達・収用等の場合の課税の特例に関する所得税の取扱についてを単に特例通達とそれぞれ称する。

(控訴人の主張)

(一)、控訴人は、原審において、建物対価補償金一四五万六、〇〇〇円と主張したが、右は物件移転補償金とするのが正確であるから訂正する。

(二)、原判決事項摘示九枚目表六行目から七枚目表一行目までの主張を次のとおり訂正する。

収益補償金は事業所得の収入金額に算入すべきものである。しかし、建物移転補償金を取得した者がその建物の解体移築工事をなさず別に新たな建物を取得した場合、建物移転補償金のみを対価補償金と同視せず、建物の買取りにより補償金を取得する場合と同様に当該建物の再取得価額(これが建物の対価補償金となる)まで対価補償金として課税上の取扱をして欲しいとする納税者感情が生ずるのを考慮し、かつ、右考慮により公共用地の取得が円滑に行われることの一助とすべく、国税庁では特例通達二一により解体移築工事をなすべき建物再取得価額と建物移転補償金との差額を収益補償金から対価補償金に振り替える取扱を定めているのである。

(三)、本件収用補償金は、道路公団が補償基準要綱に基づき、本件土地の買収に伴う補償対象のすべてについて補償したものであり、それぞれの補償金が一般補償基準等により適正に決定されたことは、控訴人提出にかかる各書証により明らかである。そして、収用等の対価たる金額は、収用等の対象となつた資産によつて決めるべきもので、代替資産の取得に要する額によつて決めるべきではない。蓋し、代替資産取得額によるとすると、被買収者がいかなる代替資産を取得するかにより対価の額が左右されることとなり、その結果適正な補償といえないことになるからである。本件の場合、基準どおりの対価補償金を受けた者が、任意にそれ以外の補償金を加算して代替資産を取得したものと解すべきである。

(四)、公共用地取得のための任意買収は民法上の売買形式によるとはいうものの、買取目的である土地そのものに代替性がないから、一般の民事売買とは異なる性質をもつている。即ち、公共事業の施行者は、その事業遂行のために要する土地の取得を、売主が不当に高額な価格を提示することを理由に断念することができない立場にあるのであり、従つて一般の民事売買のように当事者の自由意思により契約締結の是非を決定し、又その価格を決定するという前提を欠いているのである。そこで任意買収の場合、その買収の対価はあらかじめ客観的な交換価値算定の基準を制定しておき、それにより公共事業の施行者は当該買収価格を算出して売主に提示することにより決まるのであり、この場合の売主の態度としては右提示価格を承諾するか否かの自由を有するだけであつて、それよりも高い価格を提示することが許されないのであつて、右提示価格により任意買収がまとまらないときは、収用裁決により当該土地を強制取得することになるのである。従つて、任意買収の場合の対価と収用裁決による裁決額との間に齟齬の生じないよう両者は同一の算定基準によりその額を決定すべきで、そのために制定されたのが補償基準要綱であり、本件の場合、この補償基準要綱によつて適正に補償額が算出され決定されたのである。

(被控訴人らの主張)

(一)、現行税法上、被控訴人らが本件土地建物を一般民間に売却し、一年以内に現住家屋を買受けた場合、それは租税特別措置法の規定により買替資産として課税対象とならないものである。ところが、売却先が阪神高速道路公団(以下単に道路公団という)という公的機関であつたばかりに、本件のごとく土地建物の対価を厳格に定め、その余は営業補償として課税対象となるというのでは法の下の平等に反し、不利益に扱われたことになる。

(二)、そして、本件買収金額の決定は、原判決が認定したとおり、代替物件の取得を可能とする総金額の提示をめぐる交渉の積重ねの中でなされたものであり、控訴人主張のごとき各種の名目の補償金の提示に基づいてなされたものでなく、これら各種の補償金名目は道路公団の職員が基準要綱なるものに拘束されるものとする立場から、事後的に名目上算定し構成していつたものにすぎず、本件買収価格は昭和三八年二月一五日頃代替物件の取得価格に改造費を加えた総額一、一八〇万円余ということで妥結をみていたのである。従つて右補償総額はすべて本件買収の対価補償金として課税されるものではない。本件の場合、当事者の合意により買収金総額が代替物件の取得に当てられていたことが極めて明白であつて、控訴人主張のように右の合意を無視して、敢て形式的名目的な土地売買契約書、物件移転補償契約書、立退補償契約書記載どおりの合意があつたと擬制すべき事案ではないのである。

(三)、任意買収は、土地収用に準ずるものではなく、民法上の売買契約の妥当する領域にあり、ただ公共用地の取得という点で特殊性を帯びるものと解すべきである。従つて、その対価は当事者の合意により自由に決められるのであるが、ただ右特殊性の故に右対価形成に土地収用法の定める補償基準が全く無関係であるとはいえない。しかし、閣議決定にかかる補償基準要綱は当事者に対し拘束力を有するものではなく、しかも任意買収の形式による公共用地の取得が常態化している現状及び数少ない収用委員会の裁決においても裁決額が買収額よりも高額であるという実態のもとでは、補償基準要綱は当事者間の合意が著しく恣意的なものとなつたりすることの歯止の機能をなすにとどまり、買収対価の決定はあくまでも当事者間の合意をその第一要因とみるべきである。

(四)、原判決は、本件収用補償金はその名義がいずれであるかを問わず、一部を除いて本件土地及び建物の対価補償金であると判断したが、右判示は正当である。

もともと、実質的な意味での対価の範囲を

1 当該資産の有する客観的交換価値相当額とするか

2 対象となつた資産に見合う同種同等の資産の取得に要する額とみるか

3 当該資産の価額とはかかわりなく、代替資産の取得に要する額とみるか

の三つの見方があるところであるが、原判決は本件具体的補償交渉の妥結過程から考慮して右3の見方を採用したものである。

そして、右見解の相当なことは、措置法の特例の適用との関係からも裏付けられる。即ち、通常の売買の場合、資産の買替によりより大きい物件を取得しても措置法三五条によりその範囲内で課税されないこととなつているのに対し、任意買収の場合、一般的にその買収価格が通常の売買に比べて売主に不利となることが多いことから、措置法で特例(三一条から三四条まで)を設けたとされているのに、同種同等の資産買替えの価格までに限定して右規定が適用されるとすれば、二重の不利益を受けることになるし、又買替資産の方を同種同等に限定しなくとも、買収価格の内訳を限定して客観的交換価値相当額だけを対価の範囲とし、これを買替資産の取得価格の範囲内で非課税とするのは通常の売買価格全額が措置法三五条、三八条の六による譲渡収入金額を構成するものとしているのと対比して著しく不利益といわざるを得ない。収用等の課税の特例が適用される場合、措置法三五条、三八条の六が適用されないのであるが、この両者のいずれが適用されるかにより著しい不均衡が生ずるようなことがあつてはならず、不均衡が生じないよう解釈すべきである。

(証拠関係)<省略>

理由

一、被控訴人ら主張の請求原因(原判決事実摘示第一、原告らの請求原因)一、二項の事実は当事者間に争いがなく、同四項の事実は控訴人において明らかに争わないので自白したものと看做す。

二、なお、次の事実も当事者間に争いがない。

(一)、亡中川徳雄(以下単に亡徳雄という)は昭和三八年度の所得税について、昭和三九年三月一六日控訴人に対し、

事業所得金額 九〇万六、二五〇円

譲渡損失金額 二万円

総所得金額 八八万六、二五〇円

として確定申告したこと

(二)、亡徳雄は、従前大阪市西区土佐堀船町三九番地において土地(同番一、宅地七・四坪)及び建物(同町六五、家屋番号五六、木造二階建店舗付住宅延一八・五坪、地下室六・四二坪)を所有して洋服業を営んでいたが、昭和三八年三月二日右土地及び建物を特定公共事業用として道路公団に買収され、その収用補償金として別表第一の項目、金額のとおり合計一、一八〇万二、二〇〇円の支払を受けたこと

(三)、亡徳雄は、右特定公共事業の用地の買収等に基因する譲渡所得の計算について、措置法の定める特例方式の適用を受けようとする旨を確定申告書等に記載しなかつたが、同人が右手続をしなかつたことについては、やむを得ない事情があつたこと

三、控訴人は、右収用補償金のうち、収益補償金と経費補償金のうち、建物対価補償金への振替額七八万四、〇〇〇円を控除した残額五〇八万二、二〇〇円は事業所得として課税標準に加算すべきものと主張し、被控訴人らはこれを争うので判断する。

<証拠省略>を綜合すると、次の事実を認めることができ、この認定に反する<証拠省略>は前掲各証拠に照らし、にわかに措信しがたく、他にこの認定を左右する証拠はない。

(一)、道路公団では高速道路建設のため、亡徳雄の所有する前記、土地及び建物(以下本件土地、建物という)を買収する必要があつたので、昭和三七年八月頃から同人らと買収の交渉を始めたが、同年末まで約一〇回の交渉を重ねるも、亡徳雄らの転居先が見つからないこともあつて容易に妥結に至らなかつた。

(二)、同年暮になつて、亡徳雄は西へ辻二つ寄つた西区土佐堀上通一丁目一番地の九、宅地一九・六八坪、及び同地上木造瓦葺二階建店舗、床面積一階一一坪、二階七・四九坪(以下代替物件という)が売りに出されているのを知り、これを転居先として購入したいと考え、右購入価格九〇〇万円に改造費等を加えた金額で本件土地及び建物を買収してもらいたい旨申出たところ、道路公団としては、補償基準要綱に従つて本件土地については公団の理事長の諮問機関である土地評価審議会が坪当り六〇万円以内と決定しており、又本件建物については地下室は除却の補償であるがその余は移転の補償とされているため、本件土地及び建物の対価及び移転補償金では右申出に応じられないが、休業補償など移転に伴う付帯的損失補償項目により補償金の上積が可能であるがその為にはその裏付資料の提出が必要である旨答え、亡徳雄は年間相当な収入を挙げているのでその資料の提出は可能であるとのことであつたので、これを基に更に四、五回交渉を重ねた結果、昭和三八年二月中頃総額一、一八〇万円余ということで妥結が内定し、そこで亡徳雄は同月一八日代替物件の売主である宗川産業株式会社との間において、右不動産を代金九〇〇万円で買取る契約を締結した。

(三)、これに引続き、亡徳雄と道路公団は前記交渉による約定に従つて必要書類を作成することになり、亡徳雄は同月二〇日、土地権利者申告書<証拠省略>、建物所有者申告書<証拠省略>、居住者申告書<証拠省略>を提出し、次いで損益計算書<証拠省略>、売上等明細書<証拠省略>、給与明細書<証拠省略>、経費明細書<証拠省略>を提出し、右書類には虚偽の記載もあつたが、公団はその内容が真実であるかどうかにつき調査することなく、同月二三日、公団が作成していた資料及び右提出書類に基づき別表第一、第二の内訳記載どおりの金額(合計一、一八〇万二、二〇〇円)を計上して土地買収価額評定調書<証拠省略>、補償金調書<証拠省略>、物件補償額<証拠省略>、及び移転補償額評定調書<証拠省略>等を作成し、これに上司の決裁を得た上、同年三月二日、亡徳雄と公団との間において、別表第一の番号1のとおり金額を四四四万円とする土地売買契約書<証拠省略>、同表番号2のとおり金額を一四五万六、〇〇〇円とする物件移転補償契約書<証拠省略>、及び同表番号3、4、5の合計どおり金額を五九〇万六、二〇〇円とする立退補償契約書<証拠省略>が締結された。右契約の成立により、亡徳雄は同日五九〇万一、一〇〇円、同月二六日一三三万二、〇〇〇円、更に同年五月二一日に四五六万九、一〇〇円(合計一、一八〇万二、二〇〇円)の支払を受けた。

(四)、亡徳雄は右金銭をもつて前記宗川産業株式会社に代替物件の売買代金を支払い、かつ同地上建物(事務所)を階下は敷地一杯に拡張して店舗及び住居用に、階上は住居用に改造をはじめ、その工事は同月一九日に完成したので、直ちに同所に転居して営業(洋服業)を継続し、一方本件土地建物から退去して、同日公団に対しその引渡を完了した。なお、亡徳雄は代替物件を購入して改造し、同所に生活上の本拠を移し、かつ従前どおりの営業を継続するにつき、別表第三のとおりの出費を要したが、結果において休業等による損失はなかつた。

以上の事実を認めることができ、右事実によると、亡徳雄と道路公団との間において、本件土地及び建物の買収並びに移転交渉が妥結をみるに至つたのは、亡徳雄が代替物件をみつけてきたことが契機となつていること及び亡徳雄は本件買収にかかる補償金のほとんどを代替資産の取得費に充当していることは明らかであるが、それ故に右代替資産の取得価額をもつて本件土地及び建物自体の買収並びに移転補償額と決定したものとは到底認めることができず、むしろ本件土地及び建物自体の買収等補償金をもつてしては代替資産の取得代金に及ばないことを亡徳雄も了知した上、同人が蒙ることあるべき営業上の損失についても補償を求めるため前示損益計算書等を提出し、これに基づき計上された付帯的損失補償金を右買収等補償金に加算したものをもつて本件買収にかかる補償総額を当事者合意の上決定したものと認められるのであり、亡徳雄の提出した右各書類に虚偽の記載があつても、又右補償総額のほとんどが代替物件の取得代金に充当されたとしても右補償総額の構成に影響を及ぼすものではない。従つて、本件買収にかかる補償総額は本件土地及び建物自体の買収等補償金と付帯損失補償金をもつて構成されているのであり、亡徳雄が補償総額のほとんどを代替物件の取得費に充当したのは、後記本件土地及び建物の実質的買収等補償金に自己の事業所得を加算して代替物件を購入したものと解するのが相当であり、右補償総額はすべて本件土地及び建物の対価補償金及び移転経費であつて措置法三一条四項等により課税されるべきでないとする被控訴人らの主張は採用できない。

四、そこで、本件補償総額の課税関係につき検討する。

(一)  別表第一の番号1、2の土地対価補償金四四四万円と物件移転補償金のうち電話移設費を除いた一四五万一、五〇〇円は措置法三三条の二、一項により課税されないこと明らかである。

ところで、本件の場合、亡徳雄は建物移転補償金を取得したのであるが、実際は建物の移築工事をなさず別に新たな建物を取得したのであり、この場合右移転補償金は対価補償金と同視して右のとおり措置法三三条の二、一項の適用を受くべきものであるが、更に特例通達二一により収益補償金から対価補償金への振替えが認められ、この金額は七八万四、〇〇〇円と算出される(この算式は原判決事実摘示一〇枚目裏の(3)のとおりである。)。

そして、本件の場合、土地対価補償金四四四万円及び建物移転補償金一四五万一、五〇〇円と右振替金の合計二二三万五、五〇〇円をもつて実質的な本件土地及び建物の対価補償金として課税上の特例措置を受けるのを相当と解する。蓋し、特定公共事業のための用地として建物の存する土地を買収される者は、原則として他に代替物件を求めて移転することが必要となるのであるから、代替物件取得価格が不当に高価であると認められない限り、取得した代替物件と被買収物件を比較考量して右取得価格のうち買収された物件と同種同等のものを取得するに要すると思料される金額までは実質的な対価補償金として課税上の優遇措置を受けうべきものと解するからである。そして本件の場合、亡徳雄が取得した代替物件は事務所付宅地一九・六八坪であり、<証拠省略>によると、右事務所は古い建物であつたとのことであるから宅地のみの価格は八五〇万円位と思料されるところ、本件土地は七・四坪であるからこれは面積比にして代替物件の三・八割に当り、代替物件は本件土地より土地柄からして廉価であることを考慮しても、右取得価格のうち少なくとも約五割四二五万円位は本件土地と同等のものを取得するに要した金額と解されるのであり、この額は前示土地付対価補償金四四四万円に匹敵し、更に代替建物は改造費二五〇万八、九三〇円(<証拠省略>)に買得価格五〇万円を加えた三〇〇万八、九三〇円で取得したものと思料されるところ、右建物の一階は敷地一杯に拡張されたのであるから延床面積は本件建物(地下室付)の延床面積よりやや広い程度とみられるが、<証拠省略>によると右改造は広範囲に新材料を使用した工事と認められ、従つて右取得価格のうち少なくとも約七割二一六万円位が本件建物と同等のものを取得するに要した金額と解され、この額も前示二二三万五、五〇〇円にほぼ匹敵するものである。

(二)  別表第一の番号3の動産移転補償金は、弁論の全趣旨により当然交付目的に従つて全額動産移転費用に支出されたものと認められるので、課税すべき所得ではない。

(三)  別表第一の番号4の収益補償金のうち前示対価補償金への振替分七八万四、〇〇〇円を控除した三七二万五、九〇〇円と同5の経費補償金のうち転居先捜索費を控除した一一〇万四、四〇〇円(総額四八三万〇、三〇〇円)は、その内訳によるも事業所得の損失補償であること明らかであり、従つて事業所得の収入金額に算入すべきものである。但し、別表第三の番号3、4の合計六万二、三五〇円(六万四、三五〇円(更正決定))は右事業のための支出と認められ、又同表番号9、10の合計二万五、三八〇円は別表第一の番号5内訳<2>の移転広告費の支出に当るものと認められるから右総計八万七、七三〇円(八万九、七三〇円(更正決定))は、右事業所得の総額四八三万〇、三〇〇円から控除すべきで、その残額四七一万二、五七〇円(四七四万〇、五七〇円(更正決定))が課税さるべき事業所得となる。

なお、移転広告費は、亡徳雄の営む洋服店の店舗の移転にともなう広告費を補償したものと解する。

(四)  別表第一の番号2のうち電話移設費四、五〇〇円は本件買収にともなう電話移設費の補償金であつて、一時所得に当るものであり、同表番号5のうち転居先捜索費二五万一、九〇〇円は、主として本件買収により必要とされる生活の本拠としての転居先捜索の費用として転居に関し補償されたもので、直接的には亡徳雄の営業上の損失補償を目的としたものと解されないので、右も一時所得とみるのが相当である。そうすると、本件買収に関し亡徳雄の取得した一時所得は合計二五万六、四〇〇円であるが、別表第三の番号8のとおり電話移設費として四、〇〇〇円を、同表番号5、6、7のとおり本件転居に関し合計一五万〇、八九四円(一五万〇、八八一円(更正決定))をそれぞれ支出したことが明らかであり、これは右一時所得から控除すべきものと解するので、控除後の一時所得の金額は一〇万一、五〇六円(一〇万一、五一九円(更正決定))となり、これは旧所得税法九条一項により総所得金額に算入しないこととなる。

以上により、本件補償総額のうち、(三)項の四七一万二、五七〇円(四七四万〇、五七〇円(更正決定))が事業所得として総所得金額に加算すべきこと明らかである。

五、次に、控訴人が前二項(一)の譲渡損失金二万円を否認したことが正当であるか否かにつき検討するに、当裁判所もこれを正当であると判断するもので、その理由は原判決理由説示五項と同一であるからこれを引用する。

六、そうすると、亡徳雄の昭和三八年の総所得金額は、前二項(一)の事業所得金額九〇万六、二五〇円に三項の四七一万二、五七〇円(四七四万〇、五七〇円(更正決定))を加算した五六一万八、八二〇円(五六四万六、八二〇円(更正決定))ということになるから、控訴人が亡徳雄の昭和三八年の所得税についてなした更正処分は右金額を超える限度において違法であるから取消すべきで、被控訴人らの本訴請求は右限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。よつて、原判決を変更し、民訴法九五条、八九条、九二条但書、九三条により主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里 野田宏 中田耕三)

別表第一

番号

項目

金額(円)

内訳

土地対価補償金

4,440,000

60万円×7.4(坪)

物件移転補償金

1,456,000

<1>地上建物移転費

<2>地下室譲渡及び取壊費

<3>電話移設費

1,024,900

426,600

4,500

動産移転補償金

40,000

家財・商品・什器移転費

収益補償金

4,509,900

<1>営業休止補償

<2>得意先喪失補償

1,503,300

3,006,600

経費補償金

1,356,300

<1>給与補償金

<2>移転広告費

<3>転居先捜索費

684,400

420,000

251,900

1,180万2,000円

別表第二

項目

金額(円)

算出方法

営業休止補償

1,503,300

1ヶ月の収益501,103円×3(月)

得意先喪失補償

3,006,600

1ヶ月の収益501,105円×6(月)

給与補償

684,400

1ヶ月を228,150円としてその3ヶ月分

移転広告費

420,000

移転を産経・朝日・毎日の各新聞に各2回宛広告するものとして、その費用を算出。

転居先捜索費

251,900

別表第一の1・2の合計金589万6,000円に相当する代替物件を取得するのつき、その捜索費として大阪府宅地建物取引業者報酬額表により算出した報酬額に相当するもの。

別表第三

番号

項目

金額(円)

備考

土地・建物購入費

9,000,000

西区江戸堀通1丁目1-9宅地19.68坪と地上建物

建物改造費

2,508,930

同上建物の改造費用

テント取付費

32,000

事業所得必要経費(営業用テント取付費用)

クーラー移転取付費

32,350

同上(営業用クーラー移転取付費用)

電柱移設費

30,085

移転に伴い生じた出費

(本件土地の路面に存した電柱を数メートル移設した費用)

登記費用

116,000

同上(上記土地・建物登記費用)

建物改造中の火災保険料

4,796

同上

電話移設費

4,000

店舗移転案内費

13,960

広告費用

10

伝票類印刷替諸経費

11,420

広告費用に準ずる

計 11,753,541

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